真ん中に「空中庭園」のある、風の吹き抜ける2世帯住宅。

リビングで寛ぐAさんご夫妻。開け放した窓から室内に風が渡り、ゆったりとした時間が流れる。

施主のAさんは、阪神淡路大震災時の復興街づくりプロジェクトなどの活動を通じて、いまは工房に所属するひとりの設計者の仕事に、長年注目してきた。
そして、自分が家を建てるときはその設計者に仕事を頼もうと決めていた。それがこの家づくり。
同じ場所に建っていた前の家は築50年になろうとしていた。風通しのいい家だったが、そろそろ限界だった。息子さんも結婚するというので、2世帯住宅にすることにした。新しい家もぜひ「風通しのいい」家にしたかった。
鉄骨造で4本柱の構造体を2個つくり、エキスパンションジョイントで連結、渡り廊下のようにして、その2階部分に中庭をこしらえた。1、2階をAさんご夫婦、3階を息子さんご夫婦の居住スペースとした。2階と3階は、それぞれの世代のライフスタイルを反映して、まったく違う間取りにした。
中庭の床は亜鉛メッキのグレーチング(金属スノコ)仕様にしたので、水はけが非常によろしい。
そこに立って見上げると、さながら「空中庭園」のようで、3階の窓とその上の空が実に気持ちいい。
どこからともなく、風が吹き抜けていくのが感じられる。
2階リビングから見た中庭。グレーチングの上に趣味の鉢植えが並ぶ。手前、フローリングはフシだらけの赤松で統一した。向かい側は和室。3階は息子さんご夫婦のスペース。
中庭から見上げた3階と空。すべての部屋からこの空間を楽しめる。

毎日を楽しむためのこだわりのアイデアを、シンボルツリーが見下ろしている。

前の家では、息子さんが小学生の頃に植えたケヤキの大きな木があった。一家のシンボルツリーともいうべきこの木をぜひ残したいとAさんは考えた。その要望は、鉄骨造ならではの頑丈さと自由度を生かして、ケヤキの領分を巧みによけながら、なおかつ土地を目一杯使うデザインでクリアした。
このケヤキは、いまは新しい家のシンボルとして、家族の歴史を見下ろしている。
そのケヤキの下をくぐって、洗い出しのコンクリートから敷石へと続く玄関アプローチは、古色の和の雰囲気。と、その先に突然、都会的な真っ赤な玄関ドアが現れるという憎い演出。玄関を入ると、その脇はAさんの書斎兼「好きなもの倉庫」となる。Aさんが世界各地で手に入れた面白いものが雑然と納められた、大人の男の夢の空間である。
「この部屋ではウイスキーはタブーなんです。出られなくなってしまうので(笑)」と、Aさん。
外観はただの四角い箱に見えるけれど、中には空と風を感じられる中庭があり、「出られなくなる」書斎があり、和の雰囲気があり、都会的センスがあり、と、まさに毎日を楽しむためのこだわりのアイデアが贅沢に詰まったている。
1階、Aさんの書斎。中央のテーブルは設計者と一緒に銘木店の倉庫に行って探したクリの木の一枚板でつくった。
鉄骨造ならではの自在性を生かして、道路に面した部分は張り出している。
ケヤキは、あまり大きくなりすぎないように、枝落としをしたばかり。
玄関アプローチ。和の雰囲気の先に、真っ赤なドア。
キッチンの先は奥様の趣味のためのスペース。手前、シンク天板のケヤキの一枚板も銘木店の倉庫で探してきた。

【スペック】
東京都目黒区 A様邸
2008年7月22日竣工/鉄骨造/3階建て/2世帯住宅
敷地面積=119.69m2(36.27坪)
建築面積=71.23m2(21.58坪)
床面積=1階65.52m2/2階80.80m2/3階75.20m2
延床面積=221.52m2(67.13坪)
設計施工=株式会社工房

施工事例はこちら
目黒区の3階建て住宅・風通しを重視した家づくり