セールストークのいらない賃貸住宅

お客さんを連れてくれば入居が決まる、セールストークのいらないマンション。

賃貸経営をされているⅠさんが、長年の経験を生かして自宅近くに建てたこの独身者専用ワンルーム・マンションは「不動産屋さんがお客さんを連れてくれば、それだけですぐに入居が決まるんです」というほどの好物件である。JR山手線の駅から徒歩5分と立地もいいが、とにかく建物自体の上品な質感と清潔感が、入居を決めるポイントになっているようだ。あれこれセールストークを並べなくても、見たら即決というケースが多いという。女性の入居者も多い。

「女性のほうが決断は早いですよ」。まず、ワインレッドのALCパネルの外壁でまとめた個性的イメージの外観を、たいていのお客さんが気に入ってくれる。オートロックのエントランスに入れば、ワンランク上の落ち着いた空間が出現する。そして最後に室内を見て、新しい生活を想像してもらえたら、もう決まり。あとは「入居してみたらもっと気に入った、となるのがいちばんですね」と奥様。

毎日のように建物に足を運び、自転車置き場、玄関脇の飲料水の自販機、郵便受け、宅配便ボックス、エントランスのごみ箱などのメンテナンスを欠かさず、入居者の快適な生活をサポートしている。
このマンションを含め、Ⅰさんは都内と千葉と埼玉に7つのマンションを所有し、約50室を賃貸しているが、入居率はほぼ100%、収支も順調だという。


Ⅰさんご夫妻。毎日のように建物に足を運び、入居者の生活を支える。

オートロックのトビラの奥のエントランス。
明るい色調のタイルの壁が高級感をつくる。

 

賃貸経営のプロとしての厳しい注文に応えることが、いい建物につながった。

設計施工は3社のコンペとなり、結局、工房が指名されたが、長年の賃貸経営を通じて培ったⅠさんの注文は厳しかった。
「木造から軽量鉄骨、重量鉄骨、RCまで、いろんな建物を見てきたし、ネジ1本の値段から、地域ごとの工事費の相場まで調べて、ギリギリまでベンキョーしてもらったから、工房さんもだいぶやりにくかったと思いますよ」とⅠさんは笑いながら振り返るが、しかし、賃貸事業の収支を考えればそれも当然のこと。いちばんの課題は「高い材料を使わずに、高級感を出す」ということだった。
その賃貸経営のプロとしての厳しい注文を正面から受け止めながら、賃貸住宅を一から勉強させてもらうつもりで工房は一つひとつ応えていった。Ⅰさんは建物ごとに地元の業者を使っている。

「建てるのでも、修繕するのでも、募集するのでも、どんどん新しい業者さんを使います。
いろんな業者さんとつきあうなかで、工房さんのようなところともおつきあいできるようになるわけです。
営業の人と設計の人とのコンビネーションもいいけど、私と設計の人とのセンスもぴったりで、おかげで品のいい建物になりました」とⅠさん。

長年の経験と実績に裏打ちされた賃貸経営のプロの厳しい注文が、いい仕事につながった。


階段室は吹き抜けで外光が入り明るい。

廊下の突きあたりの部屋は、廊下のスペース分が玄関となる無駄のないつくり。

玄関を入り、広いLDを見る。左がバス、右がキッチン。

LDから玄関側を見たところ。上はロフト。

各階ごとに色の違うキッチン。パステルカラーは白い空間に似合う。
間取り
所在地:東京都荒川区
竣工:2012年2月
用途・規模・構造:共同住宅・鉄骨・地上3階建
断熱:内断熱/発砲ウレタン吹付け
敷地面積、建築面積:敷地面積 148.24㎡、建築面積 113.57㎡
延床面積、各階面積:延床面積 317.29㎡
設計:株式会社工房 一級建築士事務所