断熱と耐震を追求した、住宅兼シェアハウス

K邸は、住宅兼シェアハウス。とにかく勉強熱心なKさんは、満足のいく家をつくるために断熱工法や耐震構造の勉強をみっちりやって、この家を建てるまでの4年間でメーカーや工務店を10数箇所も回った。

その結果、もちろん住宅建築についての知識もどんどん増えたが、さまざまな経験もさせられた。
某メーカーでは、決算前の商談を急ぐ営業マンに「いま契約を決めてくれたら×××万円値引きますよ!」と水を向けられた。普通なら喜ぶ場面かもしれないが、Kさんは激怒した。「人ひとりの年収額ですよ。それまでさんざん話を詰めてきたのは何だったんでしょう。そんないいかげんな話がありますか」。優良な外断熱の家をつくるというので有名な工務店にも行った。しかし、社長本人が引いたという図面について質問すると、その社長が答えられなかったので、これはダメだと諦めた。
最後の最後に工房のモデルハウスを訪ねた。営業マンは「ご予算はおいくらですか?」と聞いてきた。いきなり予算を聞かれるのは初めての経験だったので、少し驚いた。しかし、予算が決まっていれば途中で余計な駆け引きをしなくて済むし、なるほど、それがいちばん理にかなってるなあと、妙に納得した。工房に決めた。

現代版下町人情長屋、といった風情さえ感じられるシェアハウス外観。その名も「未来あるコート」

南側は公園

シンプルな間取りが耐震性の強さにつながっている。

勉強熱心なKさんの質問は専門的で、ときに工房の営業マンもタジタジになった。それでも、営業マンは毎回のやり取りをすべてレポートにまとめ、次回そのコピーをKさんに渡し、情報を共有した。
即答できないことは宿題として持ち帰り、次の回には必ず答えるようにした。
「そんなことしてくれた営業マンはほかにいません。毎回ですよ。お見せしましょうか」と奥様が分厚いレポートのファイルを見せてくれた。1階がシェアハウスで、2階がオーナー住宅となっている。シェアハウスは3部屋あって、現在満室。場所柄、地盤が弱いので柱状改良を徹底した。そして2011年3月11日、東日本大震災が来た。家はたしかに揺れたが、それでもシェアハウスの住人がダイニングに活けておいた花は、花瓶から水もこぼれていなかった。木造在来工法だが、間取りがシンプルなぶん「直下率」(2階の柱が1階の柱の真上にくる割合)が高く、耐震等級は2等級で、数百年に一度の地震でも倒壊しない基準の1.25倍の強度となっている。断熱は充填工法と外張り工法を併用した。その断熱効果は抜群で、寒い雪の日にほとんど暖房なしで室温17℃だったという。夏の暑さ対策として、外壁に遮熱塗料を施した。さらに屋根にソーラーパネルを設置したことで、屋根への直射熱が遮られ、かなり涼しくなったのだという。


1階シェアハウスの共用キッチン&ダイニング。周りに個室が3つ。廊下に風呂とトイレがある。

玄関エントランスには、奥様ご自慢のクリスマスローズ。「緑が楽しみで毎日ここを通る」という人もいるという。

屋根にはソーラーパネル。毎月の売電額も、けっこうになる。

「書」が趣味の奥様。最近は表装も手がける。

工房営業マンが打ち合わせのたびに作成したレポートが、ファイルになって残されていた。

所在地:東京都北区
竣工:2009年12月
用途・規模・構造:共同住宅・木造・地上2階建
断熱:外断熱/乾式張りt30・内断熱/グラスウール吹込
敷地面積、建築面積:敷地面積 115.53㎡、建築面積 66.24㎡
延床面積、各階面積:延床面積 132.48㎡
設計:株式会社工房 一級建築士事務所